相続で一番トラブルが発生しやすいタイミングは、相続人一同が揃って話し合いをする遺産分割協議の時です。例えば、本来、相続で受け継ぐはずであった財産が相続できなかったり、予期せぬ相続人が現れたり……

さらには、遺産分割協議が終了した後に、「財産全てを愛人Aに相続させる」などの遺言書を持参した愛人が登場するなど、予想できない事態が起こることもあります。今回は、そんな相続の遺産分割に焦点を当て、“遺産分割に関わるトラブルのFAQ”をご紹介していきたいと思います。

他人事じゃないかも?よくあるトラブルFAQ



遺産分割協議で特に問題が発生しなければ相続はスムーズに進んでいきますが、遺族同士が不仲であるとなかなかそうはいきません。

法定相続人の他にも、見ず知らずの相続人と名乗る人物が現れたり、遺族も知らない財産などが発見されたりすることによって遺産分割協議が遅れてしまうことが多々あるのです。

そのようなトラブルを未然に防ぎ、そして万が一巻き込まれた時に慌てないよう、予め自身の周りの家族構成に似た相続トラブルの事例を確認しておきましょう。

事例1

「愛人Aに全ての財産を相続させる」と記載された遺言書が発見されたケース

Q.夫が亡くなり、「愛人Aに全て財産を相続させる」との遺言書が見つかりました。そのため一度財産は全て愛人に渡ってしまいました。その後遺留分の侵害を訴えて一部を取り戻すことができました。その場合、取得した相続財産に関する相続税は私が払う必要があるのでしょうか?

A.この場合、相続財産の総額に変動はないため収めた税額は変わりませんが、遺留分減殺請求によって、あなたと愛人Aの相続した財産に増減が発生しています。そのため、愛人Aが相続税更正の手続きの後、税金還付を求めた場合、あなたは相続税の申請と納付を行う必要があります。尚、愛人Aが相続税の更正手続きを行わなかった場合は相続税の申請・納付の必要はありません。

事例2

配偶者(専業主婦)の銀行貯金が亡くなった人(夫)の財産と判断されてしまうケース

Q.夫が亡くなり、私(妻)とその子供2人がその財産を相続し、何事もなく遺産分割協議書の作成が終わりそうになっていたのですが、息子から「私(妻)名義の銀行貯金が税務署から、夫の資産という判断されるのではないか?」との疑問を投げかけられました。実際、私自身ずっと専業主婦をしており、特に収入はなく、私名義の銀行貯金はすべて夫の収入によるものになります。この場合、どの様な判断が正しいのでしょうか?

A.判例によると、あなたの銀行貯金は亡き夫の財産であるとされる可能性が高いと言えます。生活費は夫婦共同の資金とされていますが、実際の収入は夫が得ており、例えそれがあなたの銀行口座で出し入れされていたとしても、夫の財産という性質を離れていないと判断されます。その為、夫から妻へ贈与が認められた分のみ、あなたの財産として判断されることになります。

この場合、暦年贈与(年間110万円の非課税)の分がそれに該当することになるため、あなたが実際にその銀行口座を使用していた事実などが論点となると予想されます。判断が非常に難しいと考えられますので、一度税理士もしくは税務署へ相談に訪れることをお勧めします。

事例3

相続人の一人が相続財産を隠していた事が判明したケース

Q.父が亡くなり、母とその子である私(長男)と次男が相続人となったのですが、遺産分割協議後に母が財産の一部を隠していた事が判明しました(相続税の納税はまだ)。できれば遺産分割協議を再度行うことは避けたいのですが、遺産分割協議書を再び作成しなくてはなりませんか?

A.遺産分割協議書に記載する財産価額と実際の財産価額が異なっていた場合、納付する相続税に差異が無くとも再度遺産分割協議書を作成する必要があります。

もしそのままにしてしまうと、その遺産分割協議書は無効になるか、修正申告もしくは更正処分を受けることになります。その場合、過少申告加算税・遅滞税などのペナルティを課せられる事になりますので注意が必要でしょう。

尚、相続税の申告・納付を既に行っていた後などに、遺産分割協議書に記載されていない財産の一部が出てきた時は、既に取り決めがあった相続財産がしっかりと相続分に応じて分割されており、新たに出てきた財産に関して相続人一同が協議を行った結果、その分割方法に依存が無い事を条件に、新たに出てきた財産の部分だけ修正申告をするという方法をとることができます。

事例4

遺産分割協議が長引き、申告期限に間に合わなくなりそうなケース

Q.夫が亡くなった後、相続争いが発生してしまい遺産分割協議がうまくまとまりそうもありません。聞くところによると遺産分割協議書の提出期限は相続開始の翌日から10ヶ月以内らしいのですが、少々遅れて相続税を納付することも可能でしょうか?

A.税務署への遺産分割協議書の提出期限は相続開始の翌日から10ヶ月以内となっています。もし、この提出期限に遅れてしまうと、配偶者の税額軽減や小規模宅地の軽減などの特例を受けられなくなるだけでなく、物納や延納などの手続きも受けられなくなります。

それらペナルティを避けるための対処としては、未分割の状態で期限内に各相続人がそれぞれ申請を行うことになります。

この時、各相続人は仮に相続をしたとして自身の相続財産分の相続税の申告をし、それと同時に「3年以内遺産分割分割見込み書」を提出します。この手法をとれば、後に(3年以内に)遺産分割協議が確定した場合、更正手続きをすることによって各種特例を受けることができ、納付時に払いすぎた税金は戻り、支払いが不足した分は追加で納める事によって相続を完了する事ができます。

事例5

遺産分割協議中に発生したアパート収入で揉めてしまったケース

Q.私たちは2人兄弟なのですが、父が亡くなり、その後遺産分割協議の結果、兄(長男)が賃貸用アパートを取得しました。そこで兄(長男)は遺産分割協議中にアパートの借り主から振り込まれた賃料を手にする権利(8室7ヶ月分)を主張してきたのですが、私には収益物件の相続分がないため、そもそもの遺産分割の額が兄(長男)だけ増えてしまうのではと感じます。この場合のアパート収入はどのように分けるのが適切でしょうか?

A.裁判所の判例では、遺産分割協議中に会得したアパートなどの賃料は、法定相続人割合で分けるとしています。そのため今回の場合は、兄(長男)が一人で賃料を受け取るのではなく、法定相続割合に従って分割する事が適切でしょう。そうすることで、相続分に差異が出ることがなく公平な相続財産の分割を進めることができます。ただし、その賃料を誰が受け取るかに関して、相続人の間で取り決めがある場合、つまり、兄(長男)に全て賃料を渡すことで合意した場合は、兄(長男)がアパートの賃料を全て受け取る事も可能です。

事例6

相続人の一人が遠方にいるケース

Q.父が亡くなり子供である私達兄弟3人が相続人なのですが(母は他界しています)、一つ問題があり、相続人の一人が遠方におり遺産分割協議に参加することが難しいため、手続きに関する事柄を全て口頭で済ませたいのですが大丈夫でしょうか?

A.遺産分割協議は口頭によるものでも可とされています。しかし、相続財産に不動産が含まれている場合や、後々の争いを避けるために書面による遺産分割協議書の作成をすることが望ましいでしょう。

もし書面であれば郵送でのやり取りが可能となり、相続人が遠方にいる場合でも十分に遺産分割協議書の作成が可能です。ただし、相続人の氏名は本人の自署により記名し、実印で捺印することになっているので注意が必要です。

事例7

遺族間の紛争に巻き込まれてしまったケース

Q.父が亡くなり、その子供である私を含めた兄弟4人が遺産分割協議で揉めています。私自身、自分の相続分を放棄しても良いとも考えていますが、何か良い手段はないでしょうか?

A.遺産分割協議で揉めている場合、相続放棄(相続開始があったことを知ってから3ヶ月以内)の期間を過ぎている事がほとんどであるため、相続放棄という手段がとれない事があります。

その時、遺産分割協議を避けたい、もしくは相続財産はいらないという事であれば、民法905条の規定よって、あなたの相続分を他の共同相続人に有償もしくは無償で譲渡することが可能です。

事例8

愛人と、その子供が相続の権利を主張してきたケース

Q.父が亡くなり、遺族一同で遺産分割協議を行っている最中に、愛人(自称)とその子供が現れ相続の権利を主張してきました。

遺族はそのことに関して全く知らされておらず、できるならば財産を渡したくはありません。どの様に対処する事が望ましいでしょうか?

A.まず、その現れた愛人(自称)に相続権はありません。次に愛人の子ですが、この者に関してはもし認知がされている場合は相続の権利があるため遺産分割協議に参加してもらうことになります。ただし、もし亡くなった父から認知届が提出されていない場合、愛人の子供は被相続人の死亡から3年が経たないうちであれば、“認知”の訴えをすることができます。そのため、相続人の利害関係人として、愛人の子が亡くなった父の実子であるかを、愛人の子と裁判で争うことになります。この場合、もし調停・訴訟に発展するようであれば、早めに弁護士に相談する事をおすすめします。

事例9

音信不通者が相続人にいるケース

Q.父が亡くなり、相続人は私(長男)と次男のみとなります。しかし、次男とはおよそ5年前から音信不通状態が続いており、連絡先だけでなくどこにいるかもわかりません。この場合、遺産分割協議を私一人で進め、とりあえず私一人が全て財産を相続するという事は可能でしょうか?

A.まず遺産分割協議は相続人全員が共同で行う必要があるため、それが音信不通・行方不明であるかに関わらず、勝手に遺産分割協議を進めることはできません。そのため、まずは音信不通・行方不明である相続人の所在を市区町村の役所が発行している戸籍の附票によって確認することになります。

もし、この方法でも相続人の所在や連絡先が判明しない場合、家庭裁判所に“不在者財産管理人選任”の申し立てをすることになります。通常、不在者財産管理人の選任は行方不明者との利害関係から判断されています。

そして、相続時の遺産分割協議に関しては、弁護士・司法書士などが選任されることもあり、選ばれた不在者財産管理人が行方不明者の代わりに遺産分割協議に参加することで、はじめて遺産の分割が可能になります。

また、この時に“失踪宣告”の申し立てをすることにより、行方不明者が行方不明になった時から、7年後に亡くなったものとみなすことができます。

事例10

遺産分割協議が成立するまでの相続財産の管理について揉めているケース

Q.母が亡くなり(父は既に他界)、その子供である私を含めた兄弟3人が相続人となりました。財産に宝石や貴金属があり、遺産分割協議が整うまで、遺産の管理を誰が行うかについて揉めています。この場合どの様に遺産の管理者を決定するのが妥当でしょうか?

A.遺産の管理に関して、相続人は遺産分割協議が終わるまでの間、法定相続分の持ち分割合に従い、財産管理を行う事になっています。

しかし、実際に遺産分割中に管理を行う者を決定する場合、民法に従って共同相続人全員の合意によって遺産の管理人を選任するか、相続人の持ち分の過半数による議決で決定することが多いです。

もしこの時点で揉め事が発生しているのであれば、今後の遺産分割協議で揉める可能性は非常に高いと考えられます。円滑に遺産分割を進めるためにも、一度弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。


まとめ

遺産分割協議は相続人同士で一度揉めてしまうと、なかなか収集がつかなくなってしまうことがあります。

この時、感情的になって自分達の意見をぶつけ合うのではなく、冷静な第三者を入れることによって、不要な紛争や勘違いを減らし円滑に遺産分割協議を進めることができます。

もし、あなたが将来発生する相続もしくは既に発生している相続でトラブルに巻き込まれそうであるならば、一度専門家に相談してみるのも良いかもしれませんね。